認知症のケア技法、ユマニチュードとは?5つのステップと効果
更新日:2023/09/11
あなたは、認知症の方の介護をしていて、「うまくいかなかった」「もっと良いケアをしたい」と感じたことはありませんか?そんな方に知ってほしいのが、認知症のケア技法「ユマニチュード」です。この記事では、ユマニチュードとは何か、簡単にわかりやすく説明します。
目次
ユマニチュードとは?
ユマニチュードとは、フランス語で「人間らしさを取り戻す」という意味の造語で、認知症ケアのプログラムとして注目を集めています。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの技術を基本とし、「あなたを大切に思っている」ということを相手に分かるように伝えていきます。
ユマニチュードの歴史
ユマニチュードは、1979年、フランスの体育学の専門家、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって考案されました。彼らがケアの現場で仕事を始めて最初に気付いたことは、専門職が「何でもやってあげている」ということでした。
彼らは、本人が持っている能力を最大限に活用することで、その人の健康を向上、維持することができると考え、「その人のもつ能力を奪わない」ための様々な工夫を重ねながら現場でケアを実践していきました。
そして、認知機能が低下している高齢者のケアがうまくいく時といかない時には、「見る方法」「話す方法」「触れる方法」が違っていることに気がつきました。さらに、人は「立つ」ことによって、生理学的な効果のみならず、その人らしさ、つまりその尊厳が保たれることが分かりました。現場での幾多の失敗から、新たなケア・コミュニケーション技法「ユマニチュード」が誕生したのです。
日本では、2012年に初めて実践され、国内でも注目を浴びました。その後、定期的な研修が行われ、現在では医療や介護の現場で普及しつつあります。
ユマニチュードの4つの柱
ユマニチュードのケアは、「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱から成り立っています。この4つの柱は1つだけではうまくいかず、ケアをする際は同時に複数組み合わせて行うことが大切です。このことを「マルチモーダル・ケア」と呼びます。具体的にどのような技術なのか、確認していきましょう。
見る
見る技術では、同じ目線の高さで相手を見ることで、平等な立場であることを伝えます。また、正面から見ることで誠実さを、近くから見ることで親しい関係であることを伝えることができます。
介護者は無意識に、ケアする箇所だけを見たり、ベッドで寝ている人を見下ろしたりしがちです。そうすると、相手に威圧感や不信感を与えてしまいます。しっかり目を合わせて、相手が大切な存在であると伝えましょう。具体的には、0.5秒以上見つめ合うことが必要だとされています。
話す
話す技術では、穏やかでゆっくりとしたペースでコミュニケーションを取ります。
「じっとしていてください」「すぐ終わります」などの言葉は、相手は命令的で不快だと感じてしまいます。低めの安定した声、大きすぎない声、前向きな言葉で話しかけ、心地よいと感じられる状態をつくりましょう。
相手から返答がない場合、介護者も無言になってしまいがちです。しかし沈黙は、相手の存在を否定するメッセージとなるため、言葉を途切れさせないためには、「オートフィードバック」法を用いるとよいでしょう。
オートフィードバック法とは?
オートフィードバック法とは、自分が行っているケア内容を実況することです。「お背中拭きますね」「体を起こしますよ」などが一例です。介護者が話しかけることで、認知症の方は安心してケアを受けることができます。
触れる
触れる技術では、なるべく広い面積で優しく触れることで、相手に安心感を与えます。つかむ行為は、相手の自由を奪うことを意味し、恐怖心を与えかねません。触れる面積をなるべく広くし、ゆっくり手を動かすようにしましょう。
また、手や顔など敏感な場所をいきなり触ると相手を驚かせてしまいます。背中、肩、ふくらはぎなどの鈍感な場所から触れていくことも大切です。
立つ
人間にとって立つことは、人間らしさを表す行為です。人間は立つことにより、身体の機能が十分に働くようにできており、筋力の低下や骨粗鬆症を防ぐ、血液の循環状態を改善するなどの良い影響を期待できます。
1日合計20分立つ時間を作ると、立つ能力は保たれ、寝たきり状態を防ぐことになります。トイレや食堂へ歩いていく、立って整容を行うなど、立つ時間を増やせるように心がけましょう。
ユマニチュードの5つのステップ
ユマニチュードでは、5つのステップの順にケアを実施します。いずれのステップも、4つの柱を組み合わせて行いましょう。
ステップ1:出会いの準備
出会いの準備では、認知症のに自分が来たことを伝え、入室してよいか許可を得ます。具体的な手順は以下です。
- 3回ノックする
- 3秒待つ(返事があれば5.へ進む)
- 3回ノックする
- 3秒待つ
- 1回ノックしてから「入りますよ」と声をかけて部屋に入る
- ベッドボードをノックする
突然人が入ってきたら、恐怖心を与えてしまいます。まずは、こちらの存在に気づいてもらい、本人に許可してもらうことが大切です。認知症の方は、判断や理解に時間がかかることがあるため、ノックした後に少し待つようにしましょう。
ステップ2:ケアの準備
ケアの準備では、いきなりケアを行うのではなく、合意を得ます。まずは、相手の正面から視界に入り、目と目を合わせてから3秒以内に話し始めましょう。「あなたに会えて嬉しい」という気持ちを伝え、良好な関係を築きます。
その後、20秒から3分間程度の時間をかけて、ケアの話をします。もし合意が得られない場合は、無理にケアをするのではなく、一旦諦めることが大切です。この段階を経ることで、認知症の方の攻撃的な行動が減るといわれています。
ステップ3:知覚の連結
知覚の連結では、実際にケアを行う段階で、「見る」と「話す」と「触れる」のうち、2つ以上を組み合わせながら進めます。相手の五感に与える情報が常に同じになるように、言葉と行動に一貫性を持たせることが重要です。
例:目を見ながら穏やかに話しかける、笑顔を見せながら優しく触れる など
声は優しいのに強く触れるなど、五感に対して矛盾が生じてしまうと、相手が混乱し不安感が強くなるため、注意が必要です。
ステップ4:感情の固定
感情の固定とは、ケアの後で共に良い時間を過ごしたことを振り返ることです。「お風呂気持ちよかったですね」「一緒に過ごせて楽しかったです」など、前向きな言葉をかけましょう。
認知症の方は、ケアを受けたことは忘れてしまうことが多いですが、どのような気持ちになったかという感情の記憶は残ります。気持ちよくケアを受けられたことをお互いに確認し合い、次回のケアにつなげていきましょう。
ステップ5:再会の約束
再会の約束は、次のケアをスムーズに受け入れてもらうための準備です。「また明日来ますね」など具体的に約束することで、楽しみな感情が記憶に残ってくれます。
次の予定をメモやカレンダーに書いておくのも良いでしょう。それを繰り返すことで、認知症の方にとってケアの時間が幸せな時間へと変わっていきます。
ユマニチュードの効果
ユマニチュードを実践することで、介護を受ける方、介護者双方に効果があります。
介護を受ける方への効果
- 攻撃的な言葉・行動が収まる
- 精神状態が落ち着く
- 身体機能が維持される
介護者への効果
- 介護の拒否がなくなり、スムーズにケアできる
- ストレスや罪悪感が減る
- 介護のスキルに自信が持てる
認知症の方の心が穏やかになり、安心してケアを受けてもらえることで、ケアにかかる時間の短縮や介護者の心身の負担軽減につながります。また、信頼が生まれ、お互いが笑顔で過ごせるようになることも大きな効果といえるでしょう。
まとめ
ユマニチュードでは、認知症の方の健康や尊厳を損なわないことを大前提としています。相手のペースに合わせて、無理のない範囲でケアをする、時間にゆとりを持ち実施していくことが大切です。
人間らしさを尊重しケアすることで、介護を受ける方も介護者も穏やかな介護生活を過ごせるようになります。あなたもユマニチュードの考え方やケア技法を、介護に取り入れてみてはいかがでしょうか。